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インタビュー

デビュー本『バレエの立ち方できてますか?』が大好評を博している、佐藤愛さん。オーストラリアのバレエ学校の専属セラピストである愛さんならではの、レッスンで使える正しい基礎知識が、わかりやすいイラストとともに丁寧にひもとかれています。
来日ワークショップは即満員となってしまうという人気セラピストの愛さんに、バレエ上達のポイントや、バレエ学校のこと、ご自身のことなどをお話していただきました。
バレエレッスンへの気づきがもらえるスペシャルインタビューです。

Part 1
自分の体をよく知ることが、バレエ上達の近道

本のタイトルに関連しますが、バレエの立ち方というのは、バレエを習っている人であれば自然に身につく基本だと思っていたのですが、そうではないのですか?

日本語が話せる人、誰もが正しい文法で日本語の文章が書けるようになるわけでないように、残念ながらバレエをやっている全員が正しい立ち方を会得できるようになるわけではありません。立ち方ができていなくても脚を高く上げたり、ジャンプしたりすることはできますから、自分が正しく立てていないと気づかない人も多いですね。

基本の立ち方ができていないと、どんな弊害が出てくるでしょうか?

たくさんあります! 見た目でいえば、バランスの悪い筋肉がつく、体の左右のバランスが悪くなります。プロのダンサーとして毎日公演をこなしている人でない限り、ほとんどのケガの原因が基本の立ち方ができていないことから起こったりもします。
基本の立ち方は、ただ立つときだけに使うのではなく、ステップとステップの間だったり、ステップの土台だったりするので、それができていないと、テクニック的にも弱いダンサーになってしまいます。

『バレエの立ち方できてますか?』では、ストレッチやエクササイズが豊富に紹介されていますね。どのように使うのがおすすめですか?

この本でご紹介したストレッチやエクササイズはすごく基本的なものなので、プロを目指している人であれば、難易度アップバージョンのほうもかんたんにできるようになっていてほしいものです。
何かと忙しい大人バレリーナさんだったら、仕事の合間にできるもの、気持ちいいものをチョイスしてもいいですし、レッスンの前のウォームアップのときだけ使用してもOKです。

この本では、解剖学的視点が随所に織り込まれています。ただ漫然とエクササイズやストレッチをするよりも、そのような視点をもつことのメリットを教えてください。

「骨や筋肉をどうやって使っているのか?」を頭で理解できることは上達のコツです。エクササイズの効果も高まります。
“マインドフルネス”をご存じの方は多いと思いますが、脳と体、心と体のつながりは科学でも証明されてきています。
レッスン内でもその知識をバレエテクニックに応用しやすくなりますよ。ほら、先生の注意がわかりやすくなるとか。

*マインドフルネス…瞑想をとおして、”今ここ”の瞬間に意識を向けることで、自分の身体や、感情に気づくストレス低減法。心を鎮めることで、体や心の不調が軽減することが科学的にも立証されている。

なるほど。バレエダンサーに必要なボディコンディショニングについて教えてください。

ボディ=体、コンディショニング=調整、ということで大事なことは自分の体を理解することです。何が足りなくて、何を向上させたいのか? 体作り、というとエクササイズばかりにフォーカスが向きがちですが、栄養も、水分補給も睡眠や休息も体を作る上では大事です。
またダンサーの皆さんにお願いしたいことは、雑誌やSNSで見たエクササイズやストレッチが必ずしも自分に合っているとは限りません。

バレエダンサーはとても体が柔らかいイメージを誰もがもっていると思います。体がかたいとやはりバレエに向いていないのでしょうか?

うーん、体が柔らかいということは解剖学的に見ると「関節の可動域が大きいと」いいます。これは動ける幅が大きい、つまり表現する幅が広いということになるので、より大きく舞台で踊るためには必要になります。ただそれは柔軟性がコントロールできている場合に限ります。ただ床の上で柔らかくても、踊りの中でちゃんと生かすことができなければ意味がありません。踊れる体は、柔らかく、その上強靭じゃないといけないと思いますね。

バレエダンサーは体が柔らかいと同様に、とてもスマートで痩せているイメージがあります。体力を維持しながら、体重を落とす方法はありますか?

まず、何のために「体重を落とす」必要があるのかをしっかりと理解しなければいけないと思います。舞台での見た目なのか、シェアする衣装を着るためなのか、それともジャンプなどテクニックの軽さを求めているのか。それによって方法も変わってきます。
ストレスで食べ過ぎてしまう、海外のホームステイ先の食事が合わないなど、ただ食事の量を減らせば解決する問題ではないこともあります。
バレエの立ち方が正しくなく、無駄に一部の筋肉を使っているとそこだけ筋肥大が起きて太く見える。これも食事量ではなくテクニックの問題になりますね。だから体重という数字にこだわらず、理論的にしっかりと分析していく力をダンサーはつけるべきだと思います。
あと気を付けてほしいのは、プロのダンサーがダイエットグッズやサプリメントの広告に出ているようなことがあります。そのダンサーは実際その商品を使って謳っているような効果を得ているのか、ただイメージに合うという意味で商品の顔になっているだけなのか、広告に踊らされることなく冷静に考えたほうがいいと思います。

調子がよくないと感じたときのケアの方法でおすすめや心がけはありますか?

まずは調子がよくない理由を探してみることからはじめるといいと思います。
体が重く感じるとか、体の動きが鈍いというような調子の悪さであれば、昨晩しっかりと眠れなかった、昨日のレッスンの後しっかりとクールダウンをしなかった、栄養バランスのとれた食事をしていないなど、日常生活で振り返ってみることはたくさんあります。
バランスが取れない、回転がうまくいかないというテクニック的な調子の悪い場合は、基礎ができているか、正しく立ってレッスンをしているか? という基本に戻ることが一番の早道です。
病名がわからないと処方箋を出せない、というのと同じですね。まずは原因解明をお勧めします。

体に痛みなどの不調がある場合、休むかカバーしながらレッスンを続けるかの判断はとても難しいと思いますが、愛さんはどのように考えていますか?

そのダンサーのレベルやスケジュール、年齢によりますね。
幼い年齢であれば今無理をすることが彼女の将来に繋がることはほとんどありません。逆にケガが長引いたり、変な癖がついて上達の妨げになることがあります。
プロダンサーの場合、舞台のスケジュールなどによって休むという判断がダンサー一人ではできない場合があります。ディレクターや医療チームなどと相談し、どの選択が一番リスクが少なく、舞台復帰ができるのか? を考える必要がありますね。日頃からそのような会話ができるような人間関係を作っておく必要がプロダンサーにはあると強く思います。

たくさんのバレエダンサーを見ていらして、バレエがどんどん上達する人と、そうではない人の違いはどこにありますか?

努力の差だと思います。その努力とは、ただがむしゃらに朝から晩までレッスン! というのではなく頭を使ってスマートに考えられる人達がプロとして活動しているように見受けられます。
プロダンサーの舞台裏で働くこともありますが、ダンサーは自分の体への理解が深いものです。何が得意で、何が弱く、どんなトレーニングが必要なのかを知らない人には会ったことがありません。また知識として知っているだけでなくそれを毎日のレッスンの前や後に自主的にトレーニングしているわけですから、努力の塊ですよね。
「トレーニングは明日やろー」というようなプロには出会ったことがありません。きっと、明日は明日でリハーサルや舞台に忙しいからでしょうね。

Part 2
バレエ医学とダンサーとの懸け橋になりたい

バレエ学校の専属セラピストとは具体的にどのようなことをするのですか?

正式名はremedial massage therapistといいますが、短くしてセラピストと呼んでいます。学校内に治療ルームがあり、そこで学校内の生徒達を専門に治療、リハビリ、トレーニングをしています。その他に1講師として解剖学やエクササイズクラスも指導しています。学校で働いていないときは、メルボルンにあるパフォーマーを専門に見ているクリニックにもいます。

どのような経緯でセラピストになられたのですか?

オーストラリアにバレエ留学をしてすぐ、ケガをしてしまいまして。さまざまなお医者さんや治療家に診てもらったのですがよくならず、どうすることもできませんでした。 長期のお休みの後、すぐにレッスンに戻ったため、他のケガにも繋がってしまったり。最初のケガがしっかりと治ることがなく、結局踊ることを辞めました。だから、最初は自分のケガの原因を知りたくて解剖学を学び始めました。
在籍していたバレエ学校の校長が私を信頼してくださって、学校内に治療ルームを作り生徒に治療を提供する機会ができたことも、臨床経験を積むうえで大きなものでした。生徒の体やケガと向きあい、どうやったらよくなるんだろう? 何がパターンになっているんだろう?と、現場で知識やテクニックを磨くことができました。
プロを夢見る10代のダンサーが毎年40~50人入れ替わり、立ち替わりで入学してきます。こちらはできる限りのサポートを限られた時間や予算の中で行わなければいけません。そんな生活を10年以上していると心身ともに強くなります(笑)。

セラピストの仕事で一番やりがいを感じるときはどんなときですか?

生徒が上達したとき、悩みが晴れたとき、そしてその子達がプロになったときはもちろんうれしいです。だって夢が叶ったんですもの。でも、生徒たちの中で私のような仕事がしたいからと、解剖学やエクササイズを学ぶ道を選んでくれたときも嬉しいですね。次世代の子達がバレエ医学を勉強してくれているんですから。

逆に、苦労や大変でやめてしまいたいと思うようなことはありますか?

まったくないです。バレエ学校、クリニック、日本のバレエ情報サイト運営や来日セミナ―をこなしているのですが、辛かったら続けていられないと思います。
バレエ学校以外でも、オーストラリアバレエ団の医学チームで研修をさせて頂いたり、クラシックバレエダンサーだけでなく、ミュージカルやオペラなどのクライアントとはクリニックで治療させていただく機会があります。さまざまなジャンルのダンサーやパフォーマーの違いや共通点、また最近のアート界が求めているものなどを毎日肌で感じています。 とてもやりがいがありますし、好きだから毎日楽しいですよ。

日本には多くのバレエ教室があります。子供の場合はとくに、その子にあったバレエ教室や先生を選ぶことは難しいように思いますが、親御さんはどんな点に気を付けるといいと思いますか?

難しい質問ですね。でもよく質問される内容でもあります。もちろんいい先生につくことは大事ですが、子供の場合、継続して通うことのできる距離にあるか、周りのお友達との相性、先生との相性、というのも大事になってきます。
子供たちの体やバレエテクニックを育てることはもちろんバレエの先生のお仕事ですが、子供たちの心というものも、スタジオ内での人間関係によって磨かれていきますよね。素敵な先輩ダンサーがいるとか、一緒に通えるお友達がいるとか、先生の説明や方針が腑に落ちるとか、そのような子供を取り巻く環境の部分も大事だということです。
親御さんはお子さんの性格をしっかりと理解し、バレエの基礎や指導法についても少し知っておきましょう。お受験のときに学校の方針やスポーツに強いなどの特徴をリサーチするのと同じようなものです。通い始めてからも、子供にとってよくない、もしくは合わないと思ったら変更する度胸も大事だと思いますよ。

これからどんな活動をしていきたいですか? 読者の方へのメッセージもお願いいたします。

この本で書いたような見逃されがちだけれどとっても大事なバレエの基礎、ダンサーの体への理解などを高めていけるような情報提供をしていきたいと思っています。バレエ医学やその研究とダンサーとの懸け橋になれたら嬉しいですね。
またこの本で書いたエクササイズやコンセプト、本に書いていない応用やバリエーションなどを実際にセミナーで行ったり、自分の生徒達に安全に指導できるようになれる教師用セミナ―などもやっていきたいと思っています。もっと勉強したい方は是非一緒に研究していきましょうね!

愛さん教えて! バレエ留学Q&A

海外のバレエ学校に留学したいと思っているダンサーのために、愛さんに留学へのアドバイスを聞いてみました!

1. バレエ学校を選ぶポイントを教えてください。

できれば短期留学などで体験してみるのが一番いいと思います。そうすることで授業の内容だけでなく、環境や生活なども知ることができます。それができない場合は、現地でその学校のオーディションにいくこと。1日だけかもしれませんが、学校内をしっかりと見ることができます。それも無理だったら、その学校で指導している先生が行っているクラスやオーディションに行くことです。そこで先生との相性がわかります。
日本では海外に留学できればどこでもいい! というダンサーが多くいますが、それは大きな間違い。留学したら逆に下手になる子もいますし、上手な子だけが留学できるのではありません。たくさんのお金もかかります。日本で学べる学業がおろそかになることもありますからしっかりとした下調べが必要ですよ。

2. 語学力はどのくらい必要ですか?

あればあるほどいいです(笑)。どの国でもどんなバレエ団でも、レッスンはプリエとタンジュから始まるんですよ。日本だからってやっていることがすごく違うわけではない。ただ、留学の大きなメリットは経験豊かな教師軍から学べることや、同じ夢をもったクラスメイトからの刺激だと思います。それをしっかりと吸収し自分のものにするためには語学力は必要不可欠です。
ただ、最近の留学生を見ていて、日本語でさえコミュニケーションがままならない子達がいます。英語ができなくても、コミュニケーション力というのは必要です。わかる言葉から理解につなげる、会話の流れを理解する、自分と対話するなどは、使う言語に関係ありません。日本語で考えたり、理解する、会話を深めるなどの力を養うといいと思います。それがある上で、その他の言語に訳して使うわけですから。本はたくさん読みなさいね!

3.何歳から留学をするのが一番ですか?

その子によります。これは本当にそう感じます。たとえば15歳から留学し、ホームシックで病気になってしまった子も知っていますし、20歳を過ぎても同じようにホームシックになり日本に戻っていく子も知っています。人それぞれなのです。
確かに若いうちに留学している子達がプロになる率が高いように見られますが、それは年齢ではなく、彼らのダンサーとしてのレベルが留学前からすでに高い場合が多いです。
逆に18歳以上でバレエ学校に来た子達でもプロになっている子も多くいます。
ですから、15歳から3、4年留学するのがいいのか、18歳で最終学年に入るのがいいのか、その時期は一概にはいえません。
最終的にオーディションで見られるのは実力であり、いつから留学したかとか、ポワント歴なんて聞かれません。幼いうちのコンクール歴だってほとんど影響しませんよ。
自分がどこを最終目標にしているのかをしっかり見定めて判断してください。

4. 留学では食生活など越えなければならないハードルも多いと思いますが、海外でやっていくために必要なメンタルの心構えがあれば教えてください。

何のために自分が海外にいて、なぜ踊りたいのかをしっかりと考えていない子が留学してくるとほとんど失敗します。「踊るのが楽しいな~」だったら、日本でもできるんですから。
自立していること、責任がとれること、などは非常に大事ですね。これは日本人だけではありませんが、親がすべてを助けてしまっている子供は、うまくいかない傾向があるように思います。
ダンサーのキャリアは17、18歳から始まります。周りの同級生は、「まだ自分がやりたいことがわからない」と言っているような年齢です。そんな頃から、各国を回り、就職活動をし、自分の見た目やテクニックを日々判断される生活を送るのです。それについていけるだけの心身の強さや自分をドライブする能力がなければうまくいきませんね。
大学に行った全員が希望の職場に就職できるわけではないのと同じように、バレエ留学をしたからといってダンサーになれるわけではありません。だけどその経験を使って他の職業につくことも十分可能ですから、自分を客観的に見る力も必要なのかもしれません。

5. 愛さんご自身がオーストラリアのバレエ学校を選んだ理由は?

カナダに短期留学したこともありましたが、その学校は自分に合わない、と強く感じました。また9.11アメリカ同時多発テロ事件があった3年後に留学したので、国際情勢も影響しました。最終的な決め手はオーディションで会った校長先生にすごく惹かれ、この人について勉強したいと思ったことです。オーストラリアという国でなくてもよかったんだと思います。今では彼女のスタッフとして働いていますから、ある意味夢は叶っています(笑)。

6. 思い出に残っているエピソードや、日本との違いを実感した出来事があったら教えてください。

よく海外で「日本人は自分の意見を言わない」と言われますが、自己主張が強かった私は自分はこのままで問題ない、と思っていたところがありました。実際にはこちらでも自己主張の強い人間の一人です。「日本人のくせに背も高いし、強いね」と、今でも初めてあった人にいわれます。褒めてるのかけなしているのかわかりませんが、ポジティブに受け取っています(笑)。そういうステレオタイプ、国別の偏見ってこういうことなのか! と実感しました(自分には当てはまらなかった、という意味でね)。
たぶんそのような性格だったので、「バレエ学校で働かせてください!」とかバレエ団にメールを送ったりできたのだと思います。

まとめ

バレエには終わりがないといいます。もっとできるのではないか。もっと踊れるようになりたい……。しかし、基礎をおろそかにして踊りの練習をすれば、どんどん本物のバレエとは遠ざかってしまいます。
それだけはこの地球上のどのダンサーにも当てはまる真実です。
『バレエの立ち方できていますか?』は、バレエの基礎の基礎を懇切丁寧に愛さんがレクチャーしています。ほんとうに上達したいダンサーの皆さんへの本気の思いが込められています。
正しい体の使い方への理解こそが、美しい踊りの確固たる土台となることを忘れないでください。その先に、あなたは真の輝きを手に入れることができるでしょう。

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