征韓―帝国のパースペクティヴ
内容紹介
Contents Introduction
民地帝国「大ニッポン」は、日本近代の最大の「負の遺産」であり、それは、こんにちにいたってなお清算されておらず、とりわけ、日・中・韓三国間の協調と新たな秩序形成にむけての前進を、阻害する要因でありつづけている。
そしてまた、明治維新を契機として形成された近代国家「日本」は、いったいなぜ、そのすべての時間と膨大な資本・エネルギー・情熱を投じて「負の遺産」を負うことになったのかという問いも、いぜん深刻な問いでありつづけている。
●本書は、そうした問いへのひとつのアプローチとして、「東アジア×500年」を三次元空間とし、帝国「大ニッポン」に透視的概観(perspective)をあたえようとするものである。
・1894年7月23日の朝鮮王宮軍事占領からはじまり、8月1日に宣戦布告をした「日清戦争」の開戦日が7月25日なのはどういうわけか?
・ファシズム国家「ニッポン」が、失敗に終わったはずの豊臣秀吉の「朝鮮征伐」を、讃美・賞揚しつづけたのはなぜだろう?
・「唐入り」をかかげて外征をくわだてた秀吉の「神像」が、なべて唐冠(とうかむり)をつけているのはどうしてだろう?
・豊臣軍が、20万をこえる朝鮮士民の鼻を削ぎ、その一部を「東山大仏」の門前に埋めて「鼻塚」をきずいたのはなんのためか?
・大久保利通が、西郷隆盛の「征韓」を阻止したその舌の根も乾かぬうちに「台湾出兵」を敢行したのはどうしてだろう?
・1945年の敗戦によって「沖縄」が切り捨てられ、主権回復後もなお日本全土・上空いたるところ、アメリカ軍になすがままをゆるしているのはなぜだろう?
これらの「Why?」の根幹にはきまって古代ヤマト王権いらいの「天皇制」があり、朝鮮と琉球、そして中華帝国がつねにナゾ解きのKeyとなる。
●「平成」から「令和」へ。ビデオ・メッセージという天皇みずからの発議によって「皇室典範」の改定をはたし、「生前退位」と「即位」が実現した。
「日本神話」の「つぎて」である天皇が、政治的復権をはたしたのか、それとも、政治制度としての「天皇制」が流動化しはじめたのか。そもそも「天皇」という制度は何なのか……。
「大ニッポン」でも「帝国」でもなくなり、かといって「民国」でも「共和国」でもなく、
「王国」でも「君主国」でも、よもや「皇国」でもないだろう「日本国」はナニモノなのかを、500年の時間を奥ゆきに探索してみる旅はきっと、斬新な知的体験となるにちがいない。
目次
Ⅰ たびのはじまり
1 いしぶみin Apr.1895―ある後備兵の死
Ⅱ 殺戮の春
2 草野の遺民―いま義旗をあげ「輔国安民」をもって死生の誓いとする
3 朝鮮王宮占領作戦―「新戦史」委員のほかは披読を禁ず
4 広島大本営発―処置は厳烈なるを要す、ことごとく殺戮すべし
5 残賊狩り―人骸累重、臭気つよく白銀のごとく人油氷結せり
6 凱旋―ももちちの、ももちちの、この勝ち軍さあなうれし
Ⅲ 大仏千僧会
7 リベンジ―三〇〇年のねむりをさまされた「豊公サン」
8 唐入り(からいり)―出口のない「天下一統プロジェクト」
9 豊太閤の雄図―秀次を「大唐関白」に、天皇和仁を「大唐天皇」に
10 いつわりの明使― 三韓を平らげ、唐土よりも懇願を入るるにより
Ⅳ 唐冠(とうかむり)
11 「封王」の冠服―なんじ平秀吉を封じて「日本国王」となす
12 東封一事―倭は款するも来たり、款せざるも来たる
13 「天下人」の礼装―日本にはすでに「国王」なし
14 神童世子―朝鮮赤国のこらず、ことごとく一遍に成敗もうしつける
Ⅴ 鼻削ぎ
15 Ear Monument(耳塚) ―メアリー・クロウジアからの書簡
16 「天下」世襲―高麗より耳鼻十五桶のぼる、大仏近所にこれを埋む
17 家康の「唐入り」―諸将ふたたび滄溟をこえ、兵船を福建・浙江に浮かべ
18 「武威」の凍結―幻想を投影する鏡としての「異国」
Ⅵ 未遂の「征韓」
19 「倭館」接収―わが邦は天子親政となり世襲の官はみなその職を罷め
20 Impôt du Sang(血税)― 四民均しく皇国一般の民にして、国に報ずるの道も別なかるべし
21 朝鮮征伐の「夢ばなし」―征銃はミニエール、征兵は新募にて
22 ハロウィン・ピース―琉球両属の淵源をたち、朝鮮自新の門戸をひらくべし
Ⅶ たびのおわりに
23 リセット in Sept.1951―「御親兵」になった在日アメリカ軍
著者プロフィール
Author Profile
1957 年、富山県生まれ(大阪市在住)。金沢大学教育学部卒業。
日本文藝文芸家協会会員。著書に『後月輪東の棺』(東洋出版・2013 年)、『夢のなかぞら―父藤原定家と後鳥羽院』(東洋出版・2007 年)、『王の首―曾我物語幻想』(言海書房・2002 年)、『花はいろ―小説とはずがたり』(まろうど社・1998 年)、『ひつじ―羊の民俗・文化・歴史』(まろうど社・1990 年)などがある。